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「止まるための安定」ではなく「歩くための安定」をつくるという考え方

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「止まるための安定」ではなく「歩くための安定」をつくるという考え方

「止まるための安定」ではなく「歩くための安定」をつくるという考え方

2025/12/14

片麻痺の方の歩き方を練習するとき、

 

「もっと麻痺側に体重を乗せてください」

「しっかりどっしり立ってから歩きましょう」

 

こういった声かけは、現場でよく使われます。

 

しかし実際には、これがかえって歩きにくさや不安定さを生んでしまうことがあります。

 

本記事では、 利用者さんやご家族にも伝わることば、

そして専門家にも納得していただける理屈の両方を意識しながら、

「推進させるには、不安定だからこそ安定する」

という、少し不思議なようで、とても本質的な歩行の考え方を整理していきます。

 

 

 

1.「立つときの安定」と「歩くときの安定」は違う

 

まず整理したいのは、

「止まったときに安定している姿勢」

「歩いているときに安定している姿勢」

 は、同じではないということです。

 

 

● 止まっているときに“安定して見える”姿勢

 

イメージとしては、

 足を左右に大きく広げる

 腰をしっかり落とす

 上半身をどっしり構える

このような姿勢です。

 

相撲の「四股」のように、押されても倒れにくい守りが固い姿勢といえます。

ただし、この姿勢のまま前にスイスイ歩けるかというと、そうではありません。

動き出すには向いていない姿勢なのです。

 

 

● 歩いているときに“安定している”姿勢

 

一方、歩行中に安定感がある人は、

 背筋が伸びている

 足を左右に広げすぎていない

 一歩ごとに、からだが少しだけ前に“倒れそうになる力”を上手く使っている

このような特徴があります。

 

ここから言えることは、とてもシンプルです。

止まるための安定(静的な安定)と

歩くための安定(動きながらの安定)

は違う。

 

この違いを意識できるかどうかが、片麻痺の歩行指導では大きな分かれ道になります。

 

 

 

2.「不安定だからこそ安定する」という考え方

 

少し矛盾して聞こえるかもしれませんが、これは歩行を理解する上でとても重要な視点です。

 

 

● 自転車の例で考える

 

自転車は、止まっているとき → ふらふらして、とても不安定です。

ところが、こぎ出してある程度スピードが出ると → 逆に、まっすぐ安定して進めるようになります。

 

つまり、 止まっているときには不安定でも、

動いているときの方が安定するものがある

ということです。

 

歩行も同じで、 重心(体の重さの中心)が少し前に出る 「前に倒れそうになる力」という、ほんの少しの“不安定さ”を 一歩一歩の前進の力として活かしているからこそ、歩いている状態では安定して見えるのです。

 

これを言い換えると、 静かに立つための安定(静的安定)を少し手放して、歩きながらの安定(動的安定)を取りにいくということになります。

 

 

 

3.「麻痺側にもっと体重を乗せてください」が招く落とし穴

 

片麻痺の方に対して、

「麻痺側にもっと体重を乗せてください」

と声をかける場面は少なくありません。

 

意図そのものは、

「麻痺側も使ってほしい」

「片側ばかりで立たないでほしい」

という願いからですが、実際には次のようなことが起きやすくなります。

 

一生懸命「乗せよう」として、 → 上半身を大きく横に傾けてしまう

倒れないようにしようとして、 → 足を左右に広く開きすぎてしまう(歩隔が広がる)

その結果、 → からだが左右にぐらぐら揺れやすくなる

こわさや不安から、 → 歩幅は小さく、スピードも遅くなってしまう

 

つまり、

「麻痺側に乗せましょう」という言葉が、 横揺れ・広い歩隔・小さい歩幅・超低速歩行という悪循環をつくり、 かえって不安定な歩行につながってしまうことがあるのです。

 

大切なのは、

「重心が動くこと」そのものが悪いのではなく、

「どう意識させるか」

「どこに目標を置くか」

によって、結果が大きく変わるという視点です。

 

 

 

4.目指したい歩行イメージ:5つの具体的ポイント

 

ここからは、 利用者さんにも説明しやすく、専門職にとっても整理しやすい 「理想とする歩き方のポイント」を5つに分けてご紹介します。

 

 

① 歩隔は「広げすぎない」

 

【イメージ】

カニ歩きのように足を左右に大きく広げるのではなく、 自分にとって自然な幅〜やや狭めを目指します。

 

【理由】

足を広げすぎると、前ではなく横方向の揺れが増える 前に進む力を活かしにくくなる

 

【声かけの例】

「少し足を内側に寄せてみましょう。」

「横に広がりすぎないように、前に進むイメージで立ってみましょう。」

 

 

② 歩幅は「ほんの少し大きめに」

 

【イメージ】

チョコチョコと小さい歩幅ではなく、 “半足ぶん”くらい前に踏み出した感覚を目標にします。

 

【理由】

小さすぎる歩幅 → 一歩あたりの前進が小さく、つまずきやすい

少し大きめの歩幅 → 前に進む力(慣性)が使え、リズムが作りやすい

 

【声かけの例】

「今より、半足ぶんだけ前に出してみましょう。」

「一歩を、ほんの少し大きくしてみましょう。」

 

 

③ 重心位置は「高く・まっすぐ」

 

【イメージ】

背筋を伸ばす 頭のてっぺんが上から糸で軽く引っ張られているような感覚

体を横にも前にも、極端に倒しすぎない

 

【理由】

腰を落とし、どっしり構えすぎる姿勢は、 → 止まっているときには安定 → しかし、前に進む力を使いにくく、動き出しにくい

 

背筋を伸ばし、重心をやや「高め」に保つことで、 → 「少し前に倒れそうになる力」を生みやすくなり、 → それを一歩一歩の推進に変えられる

 

【声かけの例】

「背中をスッと伸ばして立ってみましょう。」

「止まるための姿勢ではなく、“歩くための姿勢”をつくっていきましょう。」

 

 

④ 踵から着いて、親指の付け根で押し出す

 

【イメージ】

足が地面に着く順番を、 「かかと → 足の裏全体 → 親指の付け根」 という流れでイメージします。

 

【理由】

つま先からベタッと着くと、 → つまずきやすく、前への推進力も出にくい

 

踵から着くことで、 → 足首・膝・股関節が連動し、 → 前方向への“コロコロ転がるような動き”が生まれる

 

【声かけの例】

「かかとからトンと着いて、足の裏をコロコロ前に転がしていきましょう。」

「最後は親指の付け根で、グッと一歩を押し出すイメージです。」

 

 

⑤ スピードは「安全な範囲で、少し速め」

 

【イメージ】

「ゆっくり=安全」とは限りません。

その人にとって無理のない範囲で、“少し軽快なリズム”を目指します。

 

【理由】

かなり遅いスピード → 一歩ごとにグラグラしやすく、 立っている時間も長くて疲れやすい 少しテンポを上げると、 → 自転車と同じように慣性が働き、かえって安定して歩けることがある

 

【声かけの例】

「トン、トン、トン、と一定のリズムで歩いてみましょう。」

「しんどくない範囲で、少しテンポを上げてみますね。つらくなったらすぐ教えてください。」

 

 

 

5.現場でそのまま使える「声かけ」の切り替え例

 

避けたい声かけ

「もっと麻痺側に体重を乗せて!」

「しっかりどっしり構えて!」

「とにかくゆっくり、ゆっくり!」

 

これらは、

横揺れを増やす

足を横に広げさせる

超低速で、かえって不安定な歩きにしてしまう

リスクがあります。

 

おすすめの言い換え

「体を横に揺らさずに、まっすぐ前に進むイメージで歩きましょう。」

「足を少し内側に寄せて、前に進む力を使いましょう。」

「かかとから着いて、親指でトンっと押して進んでみましょう。」

「止まるための安定ではなく、“歩くための安定”を一緒につくっていきましょう。」

 

同じ「安全な歩行」を目指すにしても、 どこに意識を向けるか、どんな言葉で伝えるかによって、結果は大きく変わります。

 

 

 

6.おわりに:推進させるには、不安定だからこそ安定する

 

片麻痺の方の歩行練習では、どうしても 転倒への不安

こわさ 麻痺側への荷重への抵抗感 が前面に出てきます。

 

その結果として、 足を広く開いて、 腰を落として、 ゆっくり、慎重に歩く

という「止まるための安定」を優先した歩き方になりがちです。

 

しかし本来、私たちが目指したいのは、

・適度に絞られた歩隔

・少し大きめの歩幅

・背筋の伸びた姿勢(重心はやや高め)

・踵からついて親指の付け根で押し出す流れ

・安全な範囲で、少し軽快なリズム によって、

不安定さ”を前に進む力に変えた「歩くための安定」をつくることです。

 

 

「推進させるには、不安定だからこそ安定する。」

 

 

この一見矛盾したような言葉は、 静かに立つための安定を少し手放し、

前に進む力(慣性)を味方につけることで、

結果的に“歩いている状態としては安定する” という歩行の本質をよく表しています。

 

この視点をみなさんと共有できれば、歩行練習の方向性はぐっとクリアになります。

日々のリハビリやケアの現場で、 本記事の考え方や「声かけの工夫」が、 皆さまの支援やご自身の歩き方のヒントになれば幸いです。

 

 

 

それではまた氣の向く頃に

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